2007年03月13日

『順列都市』グレッグ・イーガン/山岸真訳 早川文庫(1999) 前編

【内容情報】(「BOOK」データベースより) 記憶や人格などの情報をコンピュータに“ダウンロード”することが可能となった21世紀なかば、ソフトウェア化された意識、“コピー”になった富豪たちは、コンピュータが止まらないかぎり死なない存在として、世界を支配していた。その“コピー”たちに、たとえ宇宙が終わろうと永遠に存在しつづけられる方法があると提案する男が現われた…電脳空間の驚異と無限の可能性を描く、キャンベル記念賞、ディトマー賞受賞作。

『順列都市』グレッグ・イーガン/山岸真訳 早川文庫(1999)

この作品は、21世紀半ば、人間をスキャンしコンピュータ上で走らせる技術が完成した時代を描いている。 物語は、主人公の<コピー>が、2045年にコンピュータ上の仮想都市で目覚め、バーチャルリアリティ内での生活をはじめるところからはじまる。
<コピー>は、一般的には現実の人間の死後に走りはじめ、一種の不死を実現する手段となっている。
この世界の個人が大きな演算を必要とするとき、演算リソースを公開市場で買うことで、コンピュータを利用する。QIPSという単位で、需要と供給をバランスする市場があり、QIPS単価が株価のように変動する。
自前のコンピュータ設備を持たない<コピー>たちも、自由市場のQIPSから、演算リソースを買って自らを動かす。 大規模プロジェクトを進める国家などで買占めが起きると、QIPS価格は暴騰し、個人がコンピュータリソースを一時的使えなくなったりするのだ。

さらにコンピュータ描写でおもしろいのが時間の扱いである。
<コピー>を走らせかつ、空間表現をする演算能力は、リアルタイムで演算するほど高速なコンピュータができていない。つまり、仮想空間内の時間は、現実の時間には追いつけない。
仮想空間内の人格は、現実時間の17分の1で走らせられる。たまたま、コンピュータの負荷があがると、<コピー>の主観時間では一瞬であっても、その間に実時間で10時間もたっていたりする。
この仮想時間と現実時間が、物語り全体で大きなポイントとなってくる。
詳しいストーリーが紹介されているブログは以下。

http://www.na.rim.or.jp/~majio/bookshelf/book/Egan_PERMUTATION_CITY.html


作者のグレッグ・イーガンは、元プログラマー。
そのため、近未来のコンピュータ描写は、正確にして秀逸である。
数学とコンピュータサイエンスをベースに、物理学・化学・惑星学・哲学と、あらゆる科学的要素を取り込み、SFファンにはたまらない高密度さでセンス・オブ・ワンダーを提供してくれる。
おおかたの感想にあるように、難解な「論理のアクロバット」が行われている。 その最たるものが、人格の<コピー>をシミュレーションしているコンピュータが止まっても、さいては宇宙がなくなっても、コピーは動作しつづけることを保障する、というアイディアだ。
そこにいきつくまでに、【塵理論】、【エデンの園配置(コンフィグレーション)】、【TVC宇宙】、といったキーワードを理解しなければならない。

さらっと読めるタイプの小説ではないが、読み応えのある本を求めている人にはうってつけである。 哲学的な側面は、以下のブログに詳しい。

My Sci-Fi Collections

塵理論についての、ぼくの解釈は、次に記載する。

 

ここより以下は、ネタバレを含みます。これから読む予定の人は、読後にお読みください。 順列都市を読む予定のない人は-おもしろくないでしょうが-どうぞ。

【塵理論】 世には以下のように、すでに多くの塵理論の解説が出ているが、自分なりの理解でまとめてみる。

森下一仁のSFガイド MI's Attic

 

円周率πの中には、シェークスピアの全戯曲が含まれている

上巻のどこかに、このような無限についての記述があり、非常に印象的だった。

1.無限とパターン

円周率は、いまのところ数値出現パターンに規則性が発見されていない。数値がランダムに出てきて、無限に続くと仮定されている。
ランダムで無限であるということは、任意の数列が「必ず」含まれているといえる。 あなたの生年月日、電話番号など、円周率の何桁目からに記述されているのだ。
なぜなら、無限に続く数列の中に、含まれていないことを証明できないのだから。
ABCのアルファベットに1から26まで番号を付ければ、文字を数値で表現できる。コンピュータのASCIIコードを使ってもいい。
シェークスピアの戯曲を数値に変換し、その数列が、円周率に<含まれていない>とは、誰も証明できない。
したがって、円周率にシェークスピアは含まれている、といえる。

ABCから順番に、01、02、03と番号を振り、実際に円周率内に文字列を発見できるか試してみた。
調査に使ったのは、32億桁の円周率データから特定数値を検索していくれるサービス。

Search Pi for any sequence of digits.

いくつかやってみた結果は以下。

検索文字列 検索数列発見桁目
ドラえもんDORAEMON04 15 18 01 05 13 15 14なし
どらDORA04 15 18 0132673754
わたしのハンドルの一部FFR31MR06 06 18 31 13 18なし
わたしのハンドルの一部Sylph19 25 12 16 081084680663

億の単位の集合のなかからでは、こんなものかもしれない。
とても興味深いサイトなので、是非みなさまも郵便番号とか、いろいろためしてみてほしい。

さて。 こうした、無秩序なデータの並びからも、意味ある文字列を抜き出すことができることがわかったと思う。
その<意味ある>、というのは、人間が勝手に意味を決めたものである。

2.離散的なデータと順序性


次は、いまみなさんが見ているパソコンの画面を考えてみる。
一般的な2006年現在のパソコンは、横1024、縦768の点の集合(XGA)で、ディスプレイに表示されている。 つまり、78万6432個の点だ。
それぞれの点は、赤緑青(RGB)の3つの色で構成されて、それぞれの色は、256階調の明るさで発色する。
すると、1024×768×256^3(乗)の個数の画面パターンが存在し、それがパソコンで表示可能な全ての画像といえる。
計算すると、13194139530000、13兆1941億3953万パターンである。
今みている瞬間の画面も、今日デジカメで撮った写真を表示している画面も、全てこの13兆個の画面集合の中の1つを選んだものといえる。
言い方を変えると、パソコンとは、この13兆の画面パターンのなかのひとつを、効率よく選択していくための機械であり、その画面にどのような意味を見いだすかは、人間が恣意的に決めているだけなのである。
画面データは、コンピュータで処理されているので、当然数値データ13兆1941億パターンの全てが、だ。
コンピュータ活動の出力結果全ては、円周率の中に含まれている。

さて、次に画面の移り変わりについて考える。
マウスカーソルを、画面左端から右端に動かしたとき、13兆の画面パターンの中から何10通りかのマウスカーソルの位置だけが違うパターンが選択され、一瞬ごとに切り替わり表示されていく。
カーソルが左端にある画面の次に、カーソルが1画素分だけずれた画像を表示し、その次にまた1画素ずれた画像を表示して、ということを繰り返して、右端に行き着くまで繰り返す。
それが、マウスカーソルの左端から右端への移動だ。

ここに、画面データの連続性がある。 こうした時間軸に沿った画面の変化を人間は認識して、活動をしていく。そこには、順序性と因果関係がある。
では、円周率の中で発生する13兆個の画面データに、順序性はあるだろうか。1桁目から円周率内を検索していき、13兆個の画面データがどのような順序で出現するか。
円周率がランダムなデータである仮定であれば、そこに順序性は何もない。
画像データパターンとしては、マウスカーソルが左端にあるもの、右端にあるもの、中間にあるもの、全ての画像は円周率の中で揃っている。 その中で、左端にあるものから順番に、右端に移っていく画面をみることで、マウスカーソルの「左端から右端への移動」という活動が認識できるのだ。
もし画面の順序を考えなければ「右端から左端」への移動のデータと、内容的になんの違いがあるだろうか。
左端から右端まで移動している全ての画像を印刷して、その紙をばらまいたとすると、マウスカーソルの動きを知らない人は正しい順序を発見することはできない。
画面の一瞬一瞬は、離散的なデータなのである。

左端から右端への移動と、右端から左端への移動とを認識しているのは誰か。
画像の表示順序をきめているのは誰か。
画面の外部にいる、操作者であるといえるだろう。
では、その操作者の意思が、画面の内部にいるとき、何がおきるだろうか。

続く



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